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序章 第十四話「同胞」 

Autor: 鈴谷凌
last update Data de publicação: 2026-04-09 12:15:24

 相対する魔人の顔は、この三年のヌールでの生活で見慣れたものであった。

 鑑定屋の店主、アラン――今朝の鑑定屋での出来事は、まだ記憶に新しかった。

 ところが、今目の前にいるアランの顔をした魔人は、人間のアランとは全く異なる姿形である。

 エルキュールはもう一度彼の姿をその眼に焼き付ける。

 相変わらず、人間よりも一際大きい身体には至るところに赤い魔素質の痣が広がっており、胸元の深紅のコアが魔人の纏う布の切れ端の隙間から覗かせている。

 紛うことなき魔人なのだが、その相貌にはアランの面影がくっきり見て取れる。

 それが意味することはもはや一つしかないのだが、エルキュールはそれを直視することができないでいた。

「へーえ、名前を聞く前に魔人になっちゃったから分からなかったけど、このお兄さんはアランって言うんだね。……ふふっ、呼びやすくていい名前ね」

 必死にその事実から意識を背けていたエルキュールに、フロンは無邪気な言葉を以て真実を突きつける。

 もはや逃げることは叶わない。あの魔人はアランが汚染されたことで生まれたのだろう。

 魔物の持つ汚染能力。言葉では知っていたエルキュールだったが
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  • 黒き魔人のサルバシオン   一章 第十四話「新たな同士」

    「分かりやすいように、君が話してくれたことと照らし合わせて話すとしようか」 これから話すことの全容を知っているのは、エルキュール自身を除けばもはやグレンくらいしかいないだろう。あまり自分のことは周囲に語らないように心掛けてきたので、いざ核心に迫る部分を自ら曝け出すとなると緊張が抑えられなかった。「まず、そうだな。君が言っていたという黒づくめの男だが……あれは恐らく俺のことだ」「ん? え……? えぇぇええー!!?」 ジェナの叫びが木々を突き抜けこだまする。確かに今のは突拍子もない発言だった。訂正し、順序だてて補足する。「その、俺は元々家族とヌールの方に住んでいたんだ。そこで魔獣を狩り、そこから採れた素材を家計の足しにしていた。君が聞いたのは恐らくそのことだろう」「あー、そっか。確かにそうかもしれないけど……って、え? ヌールに住んでいたってことは――」 過去形の表現。もしくはそうでなくてもエルキュールが言ったことがどういう意味を持つか、ジェナには容易に知れたかもしれない。「……あの事件の日。魔獣の大量発生の知らせを受け、念のために俺はある組織について調べてみることにしたんだ」「アマルティア、だね」「そう。結果としてヌール近辺の平原で彼らの痕跡を見つけたが、それは意味を為さなかった。陽動にまんまと嵌り、何とか追いついたころには、彼らが魔獣を操って街を攻撃し始めた後だった」 感情の色を乗せず、淡々と語る。本題でもないところなのでさっさと流したいという思惑からだったのだが、聞いているジェナの表情は悲痛に溢れていた。 とはいえ既に飲み込んだこと。要らぬ感傷を与えないように、言葉を矢継ぎ早に繰り出す。「動機は不明だが、アマルティアは人間を汚染する他にも、俺という存在を仲間に引き入れたかったようだった。そんな勝手な都合のために、不幸にも無関係だったヌールの街が巻き込まれた」「……まるであなたにも非があるみたいな言い方だね」 それは実際そうだろうと、言いかけた口を噤む。ジェナは責めているのではなく、暗にそれを否定しているからだろうというのが理解できたからだ。自身がどう捉えるかは勝手だが、その健気な思いは無下にはしたくなかった。「それはどうだろうな。けど俺は、俺の大切なものを傷つけたアマルティアを許せなかったし、無力な自分にも嫌気がさした。だから一人

  • 黒き魔人のサルバシオン   一章 第十三話「共通項」

    「どこから話そうかなぁ……」 さくさくと土と葉を踏む音が鳴る。グレンと共にここへ来る際に付けた印によって、帰りの足取りは軽やかなものだった。  しかし、一方のジェナといえば、話したいことがあると言ったきりこの調子である。  それほど話しにくい内容であるのなら、無理に聞いても逆効果だろう。エルキュールは前を見据えながら、続く彼女の言葉を待つ。「よし、これなら……あのね、エルキュールさん。まず、私が六霊守護に関係する人間だってことは知っているよね? 私が口を滑らせちゃったことなんだけど……」 「ああ――」 やっとの思いで出た言葉、それはエルキュールが想定していた以上に、重い内容になるであろう空気を孕んでいた。  六霊守護。その肩書が彼女がこれからする身の上話に絡んでくるとなると、こちらも真剣に耳を傾けるべきだろう。「あまり詳しいことは言えないんだけど……六霊守護っていうのは古から伝わる六柱の大精霊――それが住まうとされる聖域を守る任を負う人々のことなんだ。大精霊様の数と同じ、六つの家系がそれを担当しているの」 言葉を選ぶ、慎重な説明。書籍や伝聞で知っていた話ではあるが、無用に口を挟みジェナの話の腰を折るようなことはしないと心に決める。「そんな大層な任を全うするには優れた魔術師である必要があってね。聖域には高濃度の魔素が充満しているから強力な魔獣を惹きつけやすいし、ヴェルトモンドで最も歴史ある宗教――その信仰対象の領地を守るってことだから。だから私も小さい時からずーっと、魔法の勉強と実践ばかりさせられていたんだ」 過去を振り返る遠い目。所々に皮肉を込めた口調。それでも、語るジェナの表情に暗いものは見られない。「最初の方は楽しかったんだ。順調に成長を実感できていたし、お父さんとお母さんに教えてもらうのも嬉しかった。難しい論理も、私が興味を持てるように工夫して説明してくれたし、何より魔法は楽しいものだって……いつも私に伝えてくれた」 「……そうか、それはいいご両親だな。楽しげな様子が目に浮かぶ」 「えへへ……うん」 エルキュールの相槌に、ジェナも誇らしそうにはにかんだ。

  • 黒き魔人のサルバシオン   一章 第一話「ある少女の紀行 前編」

     リーベという生物が生まれる遥か前の古の時代のこと。 高濃度の魔素で満たされたヴェルトモンドの大地は、精霊と呼ばれる生命が住まう園であった。 火の精霊、水の精霊、風の精霊―― 世界の理たる六属性の魔素と対応する六属性の精霊たちは、思い思いのままにヴェルトモンドを放浪し、互いが干渉することを嫌っていた。 内に秘める魔素が原因なのか、異なる属性を持つ精霊たちが遭遇すると常に争いが起こる。 争いが起これば、常に力の強いものが勝ち、弱いものが淘汰されるのは、群れることを厭う精霊の間では避けられないものだった。 勝った側は負けた側の魔素を取り込み、各精霊の力の均衡というのは次第に崩れていっ

  • 黒き魔人のサルバシオン   幕間「王都に潜むモノ」

     オルレーヌを守護する王国騎士団、その騎士たちを統率するロベール・オスマンはその立場の関係上、またはその実直さ故に非常に悩みの多い人物である。 例えば、魔物の勢力が強まっているため騎士団に所属する騎士の一人一人の練度を今一度見つめ直さねばならないことについて。 例えば、いつまでも身を固める素振りを見せない愛娘のことや、先日息子夫婦の間に生まれた孫への贈り物について。 悩みの種類やその重要度は様々であるが、目下のところロベールの頭を悩ませているのはそれとは別の事であった。「ふう――」 ロベールのために設えられた

  • 黒き魔人のサルバシオン   序章 最終話「黎明」

    「――ったく、やっぱ何か隠していたみてえだな」 天を見上げながらグレンは恨めしげに呟く。横を見れば、眠りにつく前までそこにいたはずのエルキュールの姿がなかった。 もちろん通常なら大したことではない。用を足しにいったか、眠れないから外の空気を吸いにいったか、今この場にいない理由は幾つか考えられる。 しかし、エルキュールが出ていった理由はそんな気軽なものではないとグレンは半ば確信していた。 彼の目、彼の声、彼の態度は、あの時ヌール広場で別れたときとは明らかに異なっていた。その表情は失意や悔恨で塗れていた。明らかに異常な状態であったのだ。あのような人間が正常に行動できるとは到底思えない、得

  • 黒き魔人のサルバシオン   序章 第二十話「失意の中 後編」

     言葉を選ぶようにゆっくりと、エルキュールは自身の体験を差し支えないように語り始める。 ザラームのほかにも、フロンやアーウェ、魔人と化したアランの存在。自身の事と「アマルティアのもう一つの目的」には触れずに、事実を連ねていく。「君には無理をするなと言われたんだが、結局捕まってしまった。だけど、奴らは俺に攻撃を加える前に何やら通信機のようなもので会話をし、そのまま退却していったんだ」「おいおい……結局無茶してんじゃねえか……!」 グレンから悲鳴にも等しい声が上がる。申し訳

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